2014年07月23日

不思議な話『ビッグマウス的なビッグフッド・トラップ』

 「ビッグマウス的なビッグフッド・トラップ」とは、あの「ビッグフッド・トラップ」の近くに設置されていた罠である。現在は撤去されている。

 概要:ある研究者のところに、「変わったビッグフッドを目撃した」と述べる人物が電話を掛けてきた。
 「昨晩の俺は、森の中を歩いていたんだ」
 「すると、大層なことを述べるビッグフッドに遭遇したんだ」
 「そのビッグフッドは、次のように主張していたんだ」

 『……主流の科学者達の誰よりも、私は高い科学リテラシーを持っている』
 『たとえば、ダーウィンの進化論が間違っていることなど、私はすぐに見抜いてしまった』
 『しかし、主流の科学者たちは私の話を一つも理解しなかった』
 『ゆえに、私こそが地球上で一番に科学の肝を心得ている賢者だと結論できるのだ……』

 「いや、たしかに昨晩の俺は酒を飲んでいたけれど、酔ってはいなかったんだ」
 「だから、俺の目撃談は事実なんだ。信じてくれるかい?」

 研究者は、その話を信じた。さっそく研究者は森に赴いて、「ビッグマウス的なビッグフッド・トラップ」を設置しようとした。

 すると、謎の生物が現れた。研究者は驚いた。「おや、もう出てきたのか? まだ、罠の設置が完了していないのに?」
 しかし、どうも様子が変だった。

 その謎の生物は、次のように主張したのだ。
 「私は、『ビッグマウス的なビッグフッド』ではない。私は、『ニセ科学批判批判的なビッグフッド』である

 それを聞いた研究者は、「証拠を見せてほしい」と頼んだ。
 謎の生物は頷いて、ニセ科学批判批判的な話を語り始めた。
 「その昔、あのウェゲナーが大陸移動説を提唱するも、大半の学者は冷たい反応だった。根拠となる原動力を、ウェゲナーは説明できなかったからだ」

 「しかしながら、ごく僅かなウェゲナーの理解者たちは関心を持ち続けた」
 「その後、科学技術の発展があり、数々の証拠が見つかり、ついには正しい説だと認められるに至った」

 謎の生物は、語りを続けた。
 「このウェゲナーの話は、『新奇な説を唱える者は確かな根拠など提示しなくても良い』という例である」
 「新奇な説に関心を持った周囲の人達が根拠を探求し、やがて普遍的な説にまで昇華させたという例である」
 「これぞまさに、科学のダイナミックな歴史の一場面と言えよう」
 「ところがである」
 「あの忌々しいニセ科学批判者たちは、あろうことか、『新奇な説を唱える者が確かな根拠を提示するべき』などと主張しているのだ」

 「このような、立証責任を他人に転嫁する主張を鵜呑みにすることは危険であり、おおいに異論を投げ返すべきである」
 「というわけで、貴公もニセ科学批判者たちと議論する際には、『ニセ科学を批判してはいけない。どうしても批判するならば、自分で実験して確かめてから批判するべきだ』と言ってあげたまえ」

 聞き終えた研究者は、失望しながら言った。
 「なるほど、確かに『ニセ科学批判批判的なビッグフッド』のようだ。私の目的とする、『ビッグマウス的なビッグフッド』ではない

 研究者は、謎の生物に言った。
 「森に帰りなさい。私は、『ビッグマウス的なビッグフッド』の研究で忙しい」

 研究者の素っ気ない態度を見た謎の生物は、「うむ……。私のニセ科学批判批判に関心を示さないことは、貴公の自由である」
 「しかしながら、その際には私も別の処置方法を行う用意がある」
 「たとえば、貴公の言論に対するdisのコメントを数年にわたってネット上で披露したりする」
 「よって、今のうちに賛同の意を表しておくべきだと貴公に勧めておく……」
 と言い残して消え去ったという。

2014年07月02日

ネタ話『人心掌握術を駆使しなさいと述べる芸風に魅惑された者』

 そのブロガーであるAさんがニセ科学を批判していると、傍観者のBさんが現れて言った。
 「Aさんのニセ科学批判の仕方は、駄目すぎである」
 「淡々とニセ科学を批判していても、一般大衆に対する啓蒙の効果は皆無である」
 「人心掌握術を駆使すると、効果が抜群である。もっと人間の心理を洞察しなさい」

 それを聞いたAさんは、「なるほど、一理ある」と納得し、さっそく人心掌握術を駆使し始めた。
 すると、別の傍観者であるCさんが現れて言った。
 「なぜに、他人の心を操ろうとするのか? ニセ科学批判者ならば、正々堂々と科学的な話のみで立ち向いなさい」

 それを聞いたAさんは、困惑した。「淡々とニセ科学を批判していても駄目。人心掌握術を駆使しても駄目。一体、私にどうしろと言うのか」

 そこでAさんは、最初に現れたBさんの言動を観察することにした。
 Bさんは、ニセ科学批判的なブログをネット上で発見するたびに、「淡々とニセ科学を批判するだけでは駄目だ。人心掌握術を駆使しなさい」と述べていた。
 しかも、世間の人々がBさんの態度を、「中立的で好ましい態度だ」と評価していることもAさんは知った。

 そこでAさんは、試みにBさんの芸風を採り入れることにした。
 Aさんは、ニセ科学批判者であるDさんのブログを訪れて言った。
 「あなたのニセ科学批判は地味すぎて、啓蒙の効果が全く無いですね。人心掌握術を駆使するべきです」
 「人心掌握術を駆使すれば、ニセ科学を信じていた人々は目が覚めます」
 「そして、ニセ科学を信じる人の数は速やかにゼロになります」
 「このように、人心掌握術はニセ科学を撲滅する最短の道なのです。一般大衆の心理を洞察してくださいね」

 それを聞いたDさんは、冷静に答えた。
 「そう思うのならば、Aさんが御自身で実行してください。ニセ科学の撲滅に成功した暁には、大いに賞賛して差し上げます」

 さりげなくDさんはAさんをdisったのだが、Aさんはdisられたことに気がついていなかった。
 「なんと楽な芸風なのだろう。人心掌握術を駆使しなさいと述べるだけで、ニセ科学批判者に勝ってしまうとは」

 その後、Aさんは幾つかのニセ科学批判ブログに向かって遊説し、「人心掌握術を駆使しなさい」と述べては勝利を重ねた。
 Aさんは、大いに感心した。「ニセ科学批判者に連勝する気分は、良い気分だ。よし、この芸風に私は余生を捧げるぞ」

 現在、Aさんのブログは更新が滞っている。
 一説によると、本格的な遊説家になるべく、ネットの果てにある岩山に赴いて修行しているのだという。(完)

 (このネタ話は、後藤和智さんのツイッターにインスピレーションして作りました)
https://twitter.com/kazugoto/status/482697571819737090